2018年7月13日金曜日

2017年度 青少年読書感想文全国コンクール 課題図書 『ホイッパーウィル川の伝説』

姿はかわっても姉妹の愛情は変わらない――『ホイッパーウィル川の伝説』を読んで――

 私は、兄が突然亡くなったら、やはり悲しむのだろうか。

 親しい人の死を経験したのは、数年前に亡くなった祖父の死だ。ただし、親しいといっても年に数回も会うことのない人の死に対して、私はとても悲しんだという覚えがない。

 この本の主人公である妹のジュールズは、亡くなった姉のシルヴィの失踪にショックを受けつつも、姉の足跡を追っていく。すると、姉妹の母の死のあと、姉のシルヴィが必死に生き急いでいたことがわかった。それはまるで、つねに全速疾走をしているかのようだった。
 「もっと速く走らなくちゃ。」繰り返し、願い石の裏から現れるこの言葉から、姉の、父や妹への愛が静かに伝わってくる。
 私はいま、ジュールズのように兄を思ってはいない。兄も、シルヴィのように妹の私を思ってはいないだろう。

 本当にそうだろうか。物語のように、兄弟姉妹の思いを受け取るのは亡くなったあとなのではないか。兄が私を思っていないだろうと思い、だから、私は兄のことを特に思わない。そんな考えでいいのだろうか。
 妹と父を残して亡くなった姉のシルヴィは、時を同じくして森で生まれた狐のセナに、ケネンとして宿り、妹を見守っている。生まれる前から自身がケネンであり、その役目を知っていたセナは普通の狐である兄の静止を聞かずに走る。いまも人であり、あるときは妹であったジュールズに近づき導いていく。

 ジュールズはもちろんセナの名前を知らない。狐に姉であったシルヴィが宿っているなどと考えはしない。このひとりと一頭をつなぐのは、人であったときに身に着けていたヘアバンドを、セナがジュールズに渡すことだ。その、狐としてはとても危険な行動によってつながる。物語の最後に、セナはジュールズを守ってその命を落とす。まるで、シルヴィが命を落としたときと同じようにセナも命を落とすのだ。だが、ジュールズはそんなセナの思いは知らず、狐が偶然に助けてくれたと思っている。

 この物語は、生きている人の思いが直接に親しい人へ伝わることはとても稀であることを示している。それは、亡くなったあとも同じだ。ジュールズのように、セナの助けを借りて偶然に見つけなければ伝わることはないのだろう。
 めったに伝わることのない思いを兄から受け取っていないから、だから、私も兄が亡くなったとしても悲しまないのではないか。そんなふうに考えることが、私がその人から伝わってこない思いがあることを知らないのだと気付かせてくれた。この本は、伝わらない人の思いがたくさんあることを教えてくれた。

 年に数回しか会わない祖父が、私をどんなに愛おしく思ってくれていたか。思わずにはいられないであろうことを私はわかっていなかった。だから今日、家に帰ったら、母に亡くなった祖父が私のことをなんと言っていたか聞いてみようと思う。

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